「子どものために取り組みをしないでほしい」と、保護者の理解を得られず、就職時の違反選考への対応が出来なかったケースが、大分県内の高校でも起きています。
「入社後のことを考えると事業所への取り組みや申し入れはしないでほしい」と保護者が言ったからといって、取り組みをせずに終わっていいのか?という悔しい学校関係者の思いがある一方で、「入社後のことを考えて取り組まないでほしい」と保護者が願うのは当たり前で、入社後のことまで学校が責任を取れないのだから、取り組みをしない方がいいのではないかという意見がもう一方であるのも現実です。私たちが立たなければならないのはどの位置なのでしょうか。

就職試験受験後すぐにアンケート調査を行い、就職選考時の問題事象が明らかになった場合、合否結果が出る前に学校から事業所(企業)に事実確認をし、学校でのこれまでの指導経過とともに、「子どもがその質問でどのような思いをしたのか」、「問題性に気づき、行動できた子どもの力をプラスとして捉えてほしいこと」を事業所にていねいに届ける取り組みを県内のすべての高校で行なっています。全国の高校も同じです。
しかし昨年度、「保護者が入社後のことを考えて取り組みをしないでほしいと言っている」ことを理由に取り組みに至らなかったケースが大分県内で数件あり、当該校担当者の悔しい思いとともに、取り組みの困難さの声も県人教に届けられました。
入社後のことを心配する保護者の思いは理解できるし、全く否定するものではありません。しかし、この取り組みが就職選考時の差別をなくすために全国で行われている取り組みであり、違反質問をした事業所の無理解を責めるのではなく、子どもたちの思いや違反質問に出会した時の気持ちを丁寧に伝えることで、反差別のなかまとして繋がり合うことをめざした取り組みであること、そして事業所にとっても大切な学びとなり、プラスになる取り組みであることを保護者に理解してもらう必要があります。
昨年度、九州で次のような事例があったことが報告されました。違反質問に気づいた子どもが「学校の指導によりお答えできません」と答え、一度は不合格になりますが、その後の取り組みで事業所は不合格を取り消します。その事業所への入社の意思を問われたときに、その子どもは「問題があったけど、この会社に入社して、ダメなところは自分が変えていきたいと思います」と言って入社し、その後、その会社ではそれまで行われていなかった人権研修会が行われるようになり、そのことで社員が学び、一番変わったのは社長で、会社が変わっていったということです。
私たちが育てたいのはまさにそのような、自分で考え行動する子どもです。だからと言って、そこまで出来ない子どもはダメだと言っているのではありません。行動に至らなくても、どこか心に引っ掛かったり気になったでもいいのです。そんな子どもたちの「育ち」の後押しをすることが子どもたちの大切な学びになり、誰もが生きやすい差別のない社会づくりにつながると思うからです。
また事業所との付き合いから取り組みを躊躇う高校もありますが、子どもたちに頑張らせながら学校が動かないなんて自己矛盾そのものではないでしょうか。
公正選考の取り組みがめざしているのはただ就職試験で差別選考がなくなればいいということではなく、子どもたちの学びから保護者、そして社会へと反差別のなかまとして繋がり、思いが広がっていくことです。そしてこんな体験を通して子どもが自分の力で自分の人生を切り拓いていく力を身につけていけるのだと思います。子どもたちが頑張り、取り組みを進めていくことの意味はここにあります。(時枝)
