“差別するものは水に書くがごとく、差別を受けるものは石に刻むがごとし”
差別事件は「宝」、差別事件は「チャンス」です。
「踏まれた痛み」を、変わるための力にするのです!
これまで多くの地域や学校で賎称語発言や「ガイジ」発言、差別落書きなど、差別事件が起きてきましたが、その度に、悔しい思いをただ「悔しい」だけで終わらせない取り組みが重ねられてきました。これまでの差別事件の取り組みの中でずっと言われ、大切にされてきたのは、”差別事件は変わるための「チャンス」であり「宝」である”ということです。
「自分たちがなぜこんなこと言われんといけんのか。悔しくてたまらんけど、差別する人を憎んでも差別は無くならん。差別する人を自分たちのなかまにせんといけんのじゃねんか。」(部落解放高校生学習会)
これは差別事件に遭い、一週間が経ってもまだ悔し涙が止まらず、お互いの気持ちを出し合った後で、解放学習会の子どもたちが語り始めた「思い」です。この子どもたちが言うように、差別事件が起きた時に私たちが大切にしなければならないのは、差別事件を起こした人を責めるのではなく、なぜそんなことをしたのか、なぜそんなことをしなければならなかったのか、そんなところを丁寧に聞き取り、その中から自分たちにもあるかもしれない課題を見つけ、その課題から学ぶこと、そしてその差別をした人をこそ「反差別のなかま」にしていくことです。差別事件を起こした人を責めるだけでは、その人だけの問題になってしまうからです。差別発言や差別落書きが向けられた人の痛み、悔しさははかり知れません。だからこそ、それを痛かった、悔しかったということだけでけっして終わらせないこと、そのために私たちがそこから学び、反差別のなかまづくりをしていくことが大切なのです。
次は、県内のある学校で生徒の差別発言(賎称語発言)があったときの話です。「君を責めているんじゃない、君がなぜあんな発言をしたのか先生たちに教えてくれんか?」と発言した子どもに問うと、賎称語が言ってはいけない言葉、人を傷つける言葉だと人権学習で学んでいたこと、だから人を傷つけたい時にあえて使っていたのだということ、そして学校で感じている居心地の悪さなどを話しました。そこから学校としての課題が何なのかを全職員で考え、その課題を全職員のものとすることができるまで研修を続けることを管理職と確認し、それから連日、放課後に職員全員が会議室に集まり、話し合いの時間を持ちました。それから長い研修の時間となりましたが、一人ひとりが自分自身を見つめ、思いを語るようになる中で、ある退職前の教員は「私はこれまでうち学校の生徒はだめな生徒だとどこかで思っていた。だから生徒たちを押さえつけるような指導になっていたのかもしれない。そんなことが生徒との関わりの中にも知らず知らずのうちに出ていたことをこの話し合いが私に教えてくれた。うちの生徒はだめじゃないんやな。だめな生徒なんかいないんやな。もうすぐ退職する身で、今からでは遅いかもしれないが反省したい。今そんなことに気付けて良かった。感謝したい。」と話しました。続けて、他の教員からも自分自身の教員としてのあり方を問い直す言葉が次々と発せられる姿から、この研修の目的が達せられたことを皆で確認できた瞬間でした。時間をかけてこんな素敵な研修ができ、学校が変われたのは、この差別事件がチャンスとなったからです。向き合うべき課題を差別事件が教えてくれ、そことしっかりみんなで向き合ったからです。
「人権学習をするのはお前がおるけん?」と机に書かれた学校では「他人ごとの、させられる人権学習になっていたのではないか」と学校としての課題を整理し、人権学習を全校の生徒・職員が「我がこと」とするための人権集会をそれから毎年開いていきました。まさにこの差別事件を学校の宝とし、毎年この集会には自分のことを語る子どもたちや教職員の姿がありました。机に書かれた子どもは、その後その思いを大分県内の解放学習会に集うなかまたちに届け、なかまたちと夜を徹して悔しくつらい思いを分かち合い、「力」とすることができました。
差別事件は起きたら大変だと思われているところがありますが、大変は「大きく変わる」という意味であり、「より良く変わっていくための大きなチャンス」です。また、「差別事件を宝に」という言葉で各地で差別事件が語り継がれ、その取り組みは多くのところで大切に引き継がれています。「他校のことを我が校のこととして」とは使い古された言葉ですが、他校での、また他地域での差別事件からの「実践」と「学び」は、多くの地域や学校でも、自身の「学び」とすることができます。
どんな取り組みもけっして簡単ではありませんが、簡単でないからこそ、その先に大きな宝物があるのです。大切なのは、子どもたちを、そしてなかまを信じて力を合わせることです。差別事件を恐れないでください。無かったことにしないでください。みんなで大切なことに向き合う大きなチャンスですから。逃げずに頑張って下さい。あきらめないで下さい。みんな、差別をなくしたいという願いは同じですから。みんなの力で頑張りましょう。
“差別するものは水に書くがごとく、差別を受けるものは石に刻むがごとし”ですから。(時)